ギタリストとエンジニアがタッグでチェック

【レビュー】ギター録音に効果抜群のコンプ & EQ・6選

【レビュー】ギター録音に効果抜群のコンプ & EQ・6選

2019/08/15


ハードウェアのコンプ/EQの中から、ギター録音に適した製品を紹介していきます。アウトボードのコンプ2機種とEQ6機種を、ギタリスト/作・編曲家の長谷川大介氏と、エンジニアの滑川高広氏にチェックしてもらいましょう。

取材:本多理人(編集部) 取材協力:SUPALOVE 写真:生井秀樹

長谷川大介と滑川高広

【右=長谷川大介 (ハセガワ ダイスケ)】2006年Aqua Timezのギタリストとしてデビュー。2019年よりSUPALOVEに所属。NHK-FM『FMシアター「帰り来るもの」』の音楽と劇中歌を担当するなど、作家として精力的に活動している。
【左=滑川高広 (ナメカワ タカヒロ)2011年にマルニスタジオに入社し、エンジニアのキャリアをスタート。2019年よりSUPA LOVEに所属。Kobasoloや三月のパンタシア、名渡山 遼、えまおゆうなどジャンル問わず様々なアーティスト作品やCM、映画などに携わる。

今回の試奏方法は、まずギターをケンパーProfiling RACKにつないで基本的な音色を作って、ケンパーのアウトから出した信号を試奏機に通して音作りをしてから、アビッドHD I/Oを経由してアビッドPro Toolsに録音しました。音色はフェンダー系のクリーントーンと、コンプとEQのかかりがわかりやすいオレンジ系のジャリっとするクランチサウンド、そしてマーシャル系のディストーションを鳴らしています。録りながらコンプ/EQの設定を試しました。

 

Manley Laboratories
ELOP+ ¥270,000

通すだけでクリーンでも歪みでも、太くて気持ちいい音に変わるナチュラルなコンプ

manley ELOP+

90年代初期に登場し、世界中で使われたステレオ・エレクトロオプト・リミッター「ELOP」の改良モデル。「3:1」のコンプレッションレシオを追加し、低ノイズレベル化を果たした高電圧スイッチング電源が採用されるなど、多数の改良が施されている。

長谷川:これにギターを通すだけでキャラクターが良くなって音が太くなるというか、グッとくる感じが出ます。ギタリストのよくある悩みに「音が弱い」とか「インパクトが欲しい」というのがあると思うんですけど、クリーンでも歪みでもこれを通せば気持ちいい音に変わりますね。ギターを宅録していると、クリーンが弱々しくて泣きそうになる時があるので、そういう時に通すといいんじゃないかな。コンプのかかりにはクセがなくて、イヤな感じもない。ツマミが2つしかないところも、ギタリストが感覚的に操作するのにいいと思います。ギターサウンドの本来の特徴が出やすいですね。

滑川:これはいわゆる“マンレイ”の音がします。真空管の倍音がすごく付くんですよ。昔の真空管みたいなモッサリ感ではなく、ハイファイだけど太くて、上も自然に伸びていく。通すだけで音像も少し大きくなるから、聴いていて気持ちいいですね。オプトコンプなのでナチュラルにかかる点がギターに合っています。同じオプトコンプのテレトロニクスのLA-2AやLA-3Aと比べるとELOP+の方がガッツがあって、ローのパンチ感は出しやすいです。ロックっぽい音にできるかな。あとはサイドチェーン・フィルターがあるので、ブリッジミュートとかを弾く時に、ローにコンプが引っかかって奥まるのを回避できます。あと、コンプとリミッターのモードを切り替えて使えます。リミッターにするとアタックが早くなる印象がありますが、わりと自然にかかりますね。コンプモードの方が色々と音作りはできます。どちらのモードも使えるクオリティなので、聴いた感じで好みの方を選べばいいと思います。

問:㈱フックアップ
TEL:03-6240-1213
 

TUBE-TECH
CL 1B オープンプライス(¥480,000前後)

マイルドかつナチュラルなかかり方で、違和感なく音の密度が上がる

tubetech CL 1B

多くのエンジニアから「ハイファイで暖かみがあり、自然なサウンドが得られる」と評価されている定番コンプ。レシオのツマミにスムーズに連続可変できるノンクリックタイプを採用し、一定の圧縮比率に束縛されない自由な微調整が可能となっている。

長谷川:このコンプは音がすごくマイルドで、イヤな感じがありません。音楽的にかかってくれます。真空管が入っているせいか音色が暖かくてナチュラルで、ハイファイな機材と比べるとその質感がよくわかります。エグい歪みサウンドを入力しても落ち着く感じがあって、気持ち良く弾けますね。ケンパーとの相性も良かったです。ケンパー内部でのコンプ調整は限界があるので、こういうアウトボードのコンプがあると助かります。あと、ツマミの周囲に目盛りがほとんどないんですけど、この方がギタリストにとってはイジりやすいんじゃないかな。

滑川:僕はとても馴染みのあるコンプですが、ギターにかけるのは今回が初めてでした。歌に使うことが多いですけど、ギターにかけてもすごく良かったです。オプトコンプなのでナチュラルにかかるし、チューブテックならではのハイファイさもあって、クセなくレベルを揃えられるのがすごくいい。特にクリーンに合うんじゃないかな。試しにハードコンプにしてみても、音像が全然奥まらないのはさすがです。すごく融通が効くのでオールマイティに使えました。レシオをマックスの「10:1」にしても、違和感はなかったです。イヤな潰れ方をしないので、圧縮した時の音の密度の感じで、レシオの位置を決めたらいいんじゃないかなと思いました。「2:1」だとかかり方が緩いので、密度は薄くなりますが、コンプをちょっとだけかけたい時はそれでもいいと思います。もっと芯のある感じにしたい時は、レシオを上げていくといいでしょう。リダクション量に関しても、メーターを大きく振らせるくらいかけても大丈夫でした。

問:ヒビノインターサウンド㈱
TEL:03-5783-3882
 

ART
EQ341 ¥29,800

ギターアンプのピーキーになる周波数を、ピンポイントでカットするのに最適

ART EQ341

デュアルチャンネルで15バンド仕様のグラフィックEQ。「コンスタントQフィルター回路」により隣の周波数帯への影響を回避。各チャンネルにXLR /TRS/RCAの入出力を装備している。クリップの5dB手前で点灯するCLIP LEDも搭載。

長谷川:これはゲインの可変幅を「±6dB」と「±12dB」から選べます。±12dBで使ってみると、かなり強烈に効きますね。微調整をする時は±6dBがいいです。それと、調整できるバンド数が多いので、アンプのピーキーになる周波数をピンポイントでカットするのに便利です。グライコなので、ローが下がっているとか、ハイが上がっているとかが見た目でわかりやすいし、感覚的に調整できるので扱いやすいと思いました。僕はライブでアコギを調整する時に、グライコを使うことが多かったんです。ローがすごく出ていたり、ピークがあったり、ベースと被ってハウリングする時によくグライコでカットしていたので、こういうEQ341のようなEQがあると環境に左右されずに音作りができます。ケンパー側のプリセットをイジらずに、サウンドを調整できるのも便利だと思いました。音はクセがなくてストレートです。

滑川:これはわりと素直にかかるEQで、Qが狭いので、ガッツリと音作りをするというより、作った音に対して微調整をするのに向いていると思いました。ギタリストはこのグライコのルックスに慣れている人が多いでしょうから、可変幅を±12dBにしてギターの音作りに使うのもありだと思います。エンジニアとしては可変幅を±6dBにして微調整に使いたいです。各バンドが、僕がギターを調整する際にイジる周波数と近くて、2.5kHz、400Hz、250Hzあたりはよく触りますね。ローの量感が欲しい時とかは150Hzあたりもイジるので、近いところが触れます。あと、EQをかけると音量が増減するので、それを補正できるレベルツマミが付いているのが便利です。

TUBE-TECH
PE 1C オープンプライス(¥380,000前後)

アンプシミュレーターのリアルさが増す、ウォームでマイルドなかかり具合

tubetech PE 1C

世界中のエンジニアに愛用されている、EQのロングセラーモデル。低域のブースト/アッテネートを受け持つ部分と、高域のブーストを受け持つ部分に分かれている。また、高域は5/10/20kHzのいずれかを選んでアッテネートすることも可能だ。

長谷川:これは、ギタリストが好きそうなEQがかかるなという印象でした。ツマミを動かした時の変化の仕方が自然で、ウォームと言うかマイルドな音のままローやハイを調整できるので、弾いていて違和感がありません。弾き心地も良くて、アナログ感がたっぷりある感じです。試しにツマミをフルにしてもイヤなかかり方をしませんでした。このアナログ感が、クリーンやクランチのあまり尖っていない音にハマると思います。逆にハイファイな歪みにかけて、いい感じに落ち着かせることもできます。このPE 1Cをアンプシミュレーターの後にかませば、もっとアンプっぽさが出せると思います。

滑川:PE 1Cは普段レコーディングでもミックスでもよく使いますが、ギターに使うのは今回が初めてでした。音楽的にかかるEQなので思い切った処理もしやすいし、出力段に真空管が入っているので、その倍音の感じもいいですね。チューブテックってクリアでハイファイな印象だったんですけど、今回は真空管ならではの歪み感も得られました。操作系統はハイとローしかないので、ヌケを良くしたいならハイを上げつつ、しっくりくる周波数に切り替えて、バンドワイズでQをいい感じに調整すればOKです。ローに関しては、同じ周波数をブースト/カットする「パルテック型」なので、これでいい感じの太さになるところを探します。ブーストする帯域の少し上がカットされるので、モッサリせずに音を太くできます。歪んだギターのエッジを出したい時にハイを上げて、音像が薄くなったら、ローで帳尻を合わせるという使い方が理にかなっています。アンプみたいに音が変わるので使いやすいですね。

問:ヒビノインターサウンド㈱
TEL:03-5783-3882
 

Wes Audio
_HYPERION ¥180,000

イメージしたギターサウンドを具現化しやすい、正確なコントロールができる高品質EQ

wes audio _HYPERION

完全アナログ回路で構成されたステレオ/デュアルモノ/MS対応のパラメトリックEQ。API500モジュール互換規格に対応し、USBまたは_TITAN電源ラック経由で、DAW上でのプラグインとしての操作や、デジタルリコールに完全対応する。

長谷川:この製品はDAW上にプラグインとしてインサートすることができるんですよ。画面上にEQカーブがビジュアル化されるので、どこが上がっていてどこが下がっているかがわかりやすい。今回の中では一番DTM向きな製品だと思いました。EQの調整幅もかなり効くので、録る前の音作りも録音後の作り込みもしやすいです。録る前に音を決めてもいいし、ある程度弾きやすい音に調整しておいて、ミックスで音を補正することもできます。音の印象はハイファイで、しっかりかかってくれるので、理想の音に持っていきやすかったですね。ギラついたサウンドやヘヴィな音色も作れます。クリーンのアルペジオをキラッとさせたり、エッジの効いたシャープな歪みを作る時にもいいんじゃないかな。ハイファイなので今時の歪みが作れそうです。

滑川:エンジニアにとっては設定を完璧にリコールできるところがいいですね。ミックスでアウトボードを使うと、個体差やパーツの経年劣化でどうしてもリコールが完璧にできないんですけど、この_HYPERIONはその悩みがないんです。回路はアナログで、制御はデジタル。サウンドもちょっとデジタルっぽさがあるなと思いました。EQのかかり方がすごく正確で、頭でイメージしていることがすごく具現化しやすい。でも、アナログ回路を通っているので、デジタルEQというわけでもないんです。あと、倍音を足すためのTHDという機能があって、これを「HIGH」にすると音に張りが出てギターに合いますね。ソロは「HIGH」にして前に出すイメージ、壁のようなバッキングにしたい時は前後感を調整する感じで、倍音付加が少なめの「MID」にするといいかな。音量は出したいけど、前に出し過ぎたくない時に便利です。

問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
 

Wes Audio
_PROMETHEUS ¥180,000

思いっきりサウンドを変えることができる、ギタリスト向きのパルテックカーブが魅力

wes audio _PROMETHEUS

フルアナログのパッシブEQ。リッチな音質と、革新的な「アナログ回路のデジタル制御機能」を装備している。DAWソフト上のプラグインから、本機で作り出すトーンのすべてを簡単にリコールすることが可能だ。API500モジュール互換規格に対応。

長谷川:先ほどの_HYPERIONと比べると、こちらの_PROMETHEUSはツマミの数が少なくて、コントロールできる要素が減っています。ですが、ギタリストが感覚的に使うならば、こっちの方が扱いやすいかなという印象を受けました。音質は基本的に同じなんですけど、目的によってチョイスが変わってくるのかなという印象です。これは、いい音を作ってそのまま録ってしまうためのものという印象がありますね。とは言え、本機もプラグインとしてインサートできますし、後からの調整もできます。それと、_PROMETHEUSにも倍音を付加するTHDが付いていて、ギターを弾いている身としては、これを「HIGH」にした方が気持ち良く演奏できました。グイっとくる感じがあるので、イントロとかを弾く時に欲しくなります。

滑川:本機のEQカーブは、同じ周波数を同時にブースト/カットする「パルテック型」になっていて、そこが_HYPERIONとの一番の違いだと思います。カーブが違うと、EQの役割も違ってきますし。パルテック型は思いっきり音を変えられるカーブなんです。なので音作りの方向性としては、_HYPERIONは音楽クリエイターやDTMをやっている人に向いているのかなと思う一方で、_PROMETHEUSはギタリスト向きなのかなと思いました。

長谷川:僕は基本的に宅録DAW派の人間なので_HYPERIONの方が好きなんですけど、大抵のギタリストは_PROMETHEUSを好む人が多いと思います。

問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
 

音作りにこだわるギタリストのためのパラメトリックEQに要注目!

Empress Effects ParaEQ ¥30,000

empress effects paraeq

 

「ParaEQ」はギタリストのために開発されたパラメトリックEQです。ギターサウンドを一切曇らせることなく、的確なEQ処理を行なえるのが特徴で、ペダルタイプでありながらコントロール類は非常に多彩。各バンドごとにQカーブが3タイプまで切り替えられるため、幅広いサウンドメイクができます。

低域は35Hz~500Hz、ミッドは250Hz~5kHz、ハイは1kHz~20kHzまでを、それぞれ15dBまでブースト/カットできます。

ちなみに、本機はクリーンブースターとしても優秀で、ミッドブースターやトレブルブースター的な使用も可能です。スタジオのアウトボードにも匹敵するS/Nの良さで、ノイズレスなレコーディングを実現します。

また、9V電源使用時にも内部で倍の電圧に昇圧し、大きなへッドルームとダイナミックレンジを確保。なんと0.03%以下の歪率を実現しており、このクリーンブースト機能だけでも、ギタリストにとっては手に入れたくなる製品ではないでしょうか。(文:本多理人)

問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
 

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