スリリングなイエスが帰ってきた!

イエス、9月5日の来日公演ライヴレポート2022(50年という年輪に違わない実力と進化を見せつけられた、新生イエス公演に感動)

イエス、9月5日の来日公演ライヴレポート2022(50年という年輪に違わない実力と進化を見せつけられた、新生イエス公演に感動)

2022/09/06

【イエス来日公演ライヴレポート2022】

Photo:Kazumichi Kokei

【イエス来日公演ライヴレポート2022】

 

【イエス来日公演ライヴレポート2022】

 

【イエス来日公演ライヴレポート2022】

 

【イエス来日公演ライヴレポート2022】

 

【イエス来日公演ライヴレポート2022】

 

【イエス来日公演ライヴレポート2022】

 

人類の“危機”であるコロナ・パンデミックの驚異を乗り越え、英プログレッシヴ・ロック・バンド、イエスの3年ぶりの来日公演が無事に開幕した。前回の来日公演(2019年2月)は、イエスの“結成50周年記念特別来日公演”という名目だったため、このときはバンドの歴史を紐解くようなオールタイム・ベストの選曲となっていた。 

3年ぶりの来日公演となる今回は“アルバム『危機』リリース50周年記念来日公演”となり、前回同様“50周年”という言葉を掲げているものの、公演の主旨はかなり異なっている。1972年にリリースされた『危機』は、いまでもイエスの最高傑作として聴かれ続けているのはもちろんのことだが、プログレッシヴ・ロック全盛期におけるベスト・アルバムの1枚として、世界中のロック・アーティストや音楽シーンに影響を与えた作品でもあり、50年経とうが100年経とうが、その魅力が失われることはない。つまり、『危機』の50周年というのは、すなわちプログレッシヴ・ロック黄金期から50周年という意味にもとれるのである。プログレッシヴ・ロックの金字塔作品をアルバムまるごとオリジナル・アーティストが再現してくれるというのだから、プログレ・ファンとしてはお祝いしないわけにはいかない。 

また今回のジャパン・ツアーは、5月に亡くなったアラン・ホワイトに捧げられている。アランは1972年8月の全米ツアーからイエスに加入したので、彼にとってはイエスでのキャリア50周年という記念の年でもあった。彼はツアーが再開されることを心待ちにしていたというから、なおさら残念でならない。 
 
さて定刻の19時を5分ほど過ぎた頃、いよいよ初日の公演がはじまった。もちろん会場は超満員の状態。まずはアラン・ホワイトへの追悼セレモニーということで、ステージ後方のスクリーンに彼の雄姿がスライドショウで写し出され、BGMには彼が作曲で関わった「世紀の曲り角(Turn Of The Century)」が流れる。会場にいるすべての人たちがアランへ哀悼の想いを送るように、盛大で温かな拍手が鳴り響く。まだコンサートがはじまる前だというのに、すでに胸がいっぱいになる。 

その後お約束の「火の鳥」のBGMとともにメンバーが登場し、コンサート本編へと突入する。いつものことだが、この「火の鳥」が流れると気持ちが高揚してくるのが感じられ、スティーヴ・ハウ(g, vo)、ジェフ・ダウンズ(kbd)、ビリー・シャーウッド(b, vo)、ジョン・デイヴィソン(vo)、そしてジェイ・シェレン(ds)という、新しいメンバー構成による初めてのコンサートに、期待で胸が高鳴る。 
 
[セット・リスト 9月5日] *『』内は収録アルバム 
1.自由の翼(On The Silent Wings Of Freedom)『トーマト』 
2.ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス(Yours Is No Disgrace)『サード・アルバム』 
3.夢の出来事(Does It Really Happen?)『ドラマ』 
4.スティーヴ・ハウ・ソロ/トゥ・ビー・オーヴァー(To Be Over)『リレイヤー』 
5.不思議なお話を(Wonderous Stories)『究極』 
6.ジ・アイス・ブリッジ(The Ice Bridge)『ザ・クエスト』 
7.燃える朝やけ(Heart Of The Sunrise)『こわれもの』 
8.危機(Close To The Edge)『危機』 
9.同志(And You And I)『危機』 
10.シベリアン・カートゥル(Siberian Khatru)『危機』 
<アンコール> 
11.ラウンドアバウト(Roundabout)『こわれもの』 
12.スターシップ・トゥルーパー(Starship Trooper)『サード・アルバム』 
 
1曲目の「自由の翼」は超意外な選曲。歴代のイエス・ショウのオープナーには、壮大でテクニカルな曲が演奏されることが多かったが、この曲は1979年の『トーマト』ツアー以来のセット・リスト入りとなり、もちろん日本初演となる。でもこの曲、実はリズムのメリハリがとてつもなく難しい曲なので、聴いているこちらが心配になってしまいそうだ。曲の半分くらいまで進んだところで、ようやく冷静に聴けるようになり、リズムに乗って体が揺れ出してきた。うん、これなら大丈夫だ。いや、ちょっと待てよ、最高の演奏じゃないか! 
 
そう、今回のイエスには、ここ数回の来日公演で感じられた“危なっかしさ”がまったく感じられないのだ。それはなぜか? 

ステージ上に立つ5人のミュージシャンはまぎれもなくイエスのメンバーなのだが、なにかいつもと違う雰囲気が漂っている。中央に立つジョン・デイヴィソンは、髪の毛を後ろで結わき、髭を生やして貫禄さえ感じさせる姿に。いままでは少しだけ“借りてきた猫”状態な雰囲気があって彼自身も少し斜に構えた感じで歌っていたが、今回の堂々たる歌いっぷりはとても感動的。古いイエス・ファンなら、どうしてもジョン・アンダーソンと比べて聴いてしまいがちだが、特に高域まで伸びるファルセット・ヴォイスの魅力を身につけたいまのジョン・デイヴィソンは、間違いなくイエスのフロントマンとしての地位を確立したと言っていいだろう。おそらく彼はイエスの最新作『ザ・クエスト』において、作詞・作曲面でアルバム制作に大いに貢献し、素晴らしいヴォーカル・ワークを披露することができたことで自信を付けたのだろう。 

クリス・スクワイアの遺志を継いだビリー・シャーウッドのベースの音は、もう完全にクリスそのもの。若い頃のクリスの姿を想起させる長いマントを羽織ったビリーは、今や古参メンバーのひとりとなり、新参メンバーだけど年上のジェイ・シェレンをグイグイと引っ張っていく。クリス・スクワイアとアラン・ホワイトの2人が切磋琢磨しながら築き上げたイエスの強力なリズム・セクションを、ビリーとジェイが心の限り再現しようという意気込みには胸を打たれる。アラン亡きいま、ジェイに課せられた重圧は計り知れないが、ときおり笑顔さえ覗かせるジェイの人柄は、きっとこれからアランのようにイエスの精神部分を支えてくれる存在になるに違いない。 

ジェフ・ダウンズの驚きの奮闘ぶりにも注目が集まった。自身を囲むようにコの字型にキーボードを並べ、ときにはオーディエンスに尻を向けて鍵盤を弾く姿はエイジア時代から変わっていないものの、彼の得意とするオルガン・ワークとシンセ・ソロは今回群を抜いてフィットしていた。特に彼がレコーディングに関わった「夢の出来事」や「ジ・アイス・ブリッジ」では、オリジナルと同じサウンドが鳴っていて嬉しくなる(「ジ・アイス・ブリッジ」では曲の最後に5.1ヴァージョンでしか聴けない破裂音のSEを鳴らすなど、ニヤリとさせる演出も)。 

そして最大のサプライズは、スティーヴ・ハウの完全復活に尽きるだろう。現在のメンバーの中でもっとも高齢となる75歳のスティーヴだが、大方の予想を見事に裏切り、軽快で俊敏な動きと正確なフィンガリングが甦り、ところ狭しと歩き回りながらジャンプしたり、名人芸と言えるギターの持ち替え技のパフォーマンスを見せたりしながらも、ジェイやジェフに指さし確認しながら指示を出すなど大車輪の活躍ぶりだった。『ザ・クエスト』では初めて単独プロデューサーの役割を果たしたスティーヴが、音楽面だけでなく精神面でもリーダーシップを発揮して、見事にバンドをひとつにまとめあげている。さらに恒例のソロ・コーナーでは、アコースティック・ギターによる「トゥ・ビー・オーヴァー」が初めて披露された。それもサワリだけ弾くのではなく、ほぼフル・サイズでの演奏にびっくり。アランの分まで頑張ってバンドをリードしようという意気込みが苦しいほどに伝わってくる。スティーヴの活躍により、イエスは再びライヴ・バンドとしてのステータスを取り戻したと言っても過言ではないだろう。 
 
コンサートも後半に入り、体も会場も十分に暖まったところで『危機』の全曲演奏がはじまった(今回のイエス公演には休憩がないので「燃える朝やけ」が終わってほっとしたところでトイレに立ってしまうと、肝心の「危機」のパフォーマンスが観られなくなるので注意)。『危機』というアルバムは起承転結がはっきりしていて、構成も複雑で転調やキメがたくさんあり、ヴォーカルやコーラス・パートの多い曲が並んでいるため、完全再現するのはたやすいことではない。それをスティーヴの的確な指示出しもあって、ほぼ従来どおりのテンポでの演奏が実現していた。特に「シベリアン・カートゥル」のアップテンポな演奏は、あの名ライヴ盤『イエスソングス』をほうふつとさせるほどの感動を与えてくれた。そして総立ちとなって聴くアンコールの「ラウンドアバウト」と「スターシップ・トゥルーパー」では会場が一体となり、もはや興奮の坩堝のカオス状態に。 
本日のハイライトはもちろんアルバム『危機』の完全再現に尽きるが、それだけにとどまらないイエスの団結力を感じさせる気持ちのいい大満足の2時間だった。メンバーの出入りが激しくアメーバのように変態を続けてきたイエスが、実力と独自のキャラクターを兼ね備えた新しいバンドへといまだ成長を続けていることが確認できたこと、それが今回の公演の最大の収穫ではないだろうか。今回のイエス公演は、今年の「観ておかないと絶対後悔するコンサート」のナンバー・ワンになることは間違いないだろう。ぜひ現在進行形の彼らの姿を見届けてほしい。 
 
なおイエスのジャパン・ツアーは9月6日の東京Bunkamuraオーチャードホール公演のあと、8日のNHK大阪ホール公演、9日の名古屋ビレッジホール公演、そして追加公演として12日の東京Bunkamuraオーチャードホール公演へと続く。12日の追加公演ではセット・リストを変更し、途中スペシャル・アコースティック・インタールードを披露してくれるという。これも見逃せないだろう。 片山伸(Shin Katayama) 
 
【公演日程】 
●2022年9月5日(月)・6日(火)東京:Bunkamuraオーチャードホール old Out] 
●2022年9月8日(木) 大阪:NHK大阪ホール 
●2022年9月9日(金) 名古屋:ビレッジホール 
<追加公演> 
●2022年9月12日(月)東京:Bunkamuraオーチャードホール 
詳細はこちらから→ https://www.livenation.co.jp/artist-yes-40059 
 
【最新アルバム情報】(絶賛発売中) 
『ザ・クエスト (The Quest) 』 7年振り、22作目のスタジオ・アルバム 
●2CD+Blu-ray Version 完全生産限定盤 《日本独自パッケージ》 
●2CD Version  
●配信(ストリーミング&DL) 
詳細はこちらから→ https://www.110107.com/Yes_Quest/ 
 
【バイオグラフィ】  
1968年、ロンドンでクリス・スクワイア (B)、ジョン・アンダーソン(Vo)を中心に結成されたプロレッッシヴ・ロック・バンド。1970年代のプログレッシヴ・ロック・ブームを牽引、数々の名盤を生み出し、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、EL&P、ジェネシスと共に五大プログレ・バンドと呼ばれ、ロック史上に大きな影響を与えたバンドのひとつである。代表作はアルバム『こわれもの』(1971年)、『危機』(1972年)、『ロンリー・ハート』(1983年)など。1985年度グラミー賞初受賞。2017年にはロックの殿堂入りを果たしている。2015年6月27日に唯一のオリジナル・メンバーだったクリス・スクワイアが急性骨髄性白血病により急逝。離合集散を繰り返しながら、他の巨大バンドと比べてもほとんど活動休止期間を持たずに今も現役で活動を続けている。 

 

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